2010年3月7日日曜日

スタンフォード大のDesign for Extreme Affordabilityクラス 見学レポート

今回はKopernikでビジネスディベロップメントを担当している陸翔さんにゲスト投稿していただきました。

こんにちは!KopernikでBusiness Developmentを担当している陸です。

先週末、スタンフォードを訪問する機会があり、そこでDesign for extreme affordabilityという途上国向け製品開発を教える授業を見学してきました。今日は簡単にその授業の紹介をいたします。この授業は、IDEOの創設者であるDavid Kelleyが率いるD.Schoolというデザインスクールが運営する授業の一つで、デザイン、エンジニアリング、ビジネスなど異なる分野を専攻する学生が互いのスキルを持ち寄って、提携先のNGOが持ち込んだ途上国でのデザイン課題に取り組んでいます。

授業構成の詳細は、こちらに載っているので見ていただければと思いますが、授業を見学して感じた特徴についていくつか書いてみようと思います。

①Design Thinking
D.school全体を貫くテーマが、
Design Thinkingという「人間(ユーザー)の生活全体を中心に、総合的・クリエイティブに、現実的な解を考えよう、というコンセプトです。というと、訳がわからないように聞こえますが、例えばExtreme Affordabilityの授業では下記のようなパーツが織り込まれていました:

-Ethnography
記述民族学などと訳されますが、マーケティングの手法の一つとしても注目されているもので、ユーザーの生活を文化人類学のように判断をはさむことなく丸ごと観察し、受け入れることで、ユーザーのニーズを理解・特定していくプロセスのことを指します。授業では、始めは大学付近の消防士やウェイターなど自分とは全く違う生活をしている人を観察させる宿題を出すなどして、Ethnographyを教えているとのことでした)

-Rapid Prototyping and iteration
製品デザインのプロトタイプを考えるだけではなく、ビジネスモデル・プロモーションプランまで含めたトータルのビジネスデザインを短時間で考え、何サイクルも回すことで改善を進めていくプロセスのことです。見学した授業ではちょうど、ベンチャーキャピタルに見せるビジネスプランのプロトタイプをどう作るか、というエクササイズをやっていて、先生が「製品のポジショニングはこう考えるべし」というエッセンスを5分程度話したあと、5分ほど時間をとって、各チームがポストイットと模造紙を駆使して、アイディアをどんどん書いては貼っていくというエクササイズを繰り返していました。(これまたマーケティングの世界でも使われる手法の一つで、前職で新ブランド立ち上げの仕事にかかわっていた時にクライアント企業と行っていたエクササイズを思い出しました。)

教室の外では過去の受講生が作ったパネルが展示されていました。いくつか紹介します:





②Multi-disciplinary / Collaborative dynamics
授業後にインストラクターに授業の一番のエッセンスを聞いたところ、最も強調していたのが「Multi-disciplinary」であることでした。異なるバックグラウンド、スキルセットを持った学生が集まる中で初めてクリエイティブなアイディア、また包括的なビジネスデザインができるという言葉に大きく共感しました。

また、授業の大きな成功要因に、途上国にいるパートナーNGOの存在も挙げていました。パートナーを組んでいるNGOが、日頃の活動を通して見えてきた現地のニーズや現在使っている製品の問題点などをあらかじめ的を絞って学生に伝えることにより、学生はすぐさまデザイン思考のプロセスに入れるようです。プロジェクトの最終成果物も、まずはパートナーを組んでいるNGOを通じて現地での実用化の道を考えるそうで、「現地からの情報吸い上げ」と「現地への製品提供」の双方向のコラボレーションがしっかりしていることが成功の秘訣となっているようです。

③Practicality
もう一点、授業中繰り返しインストラクターが強調していて、多少意外だったのが、「現実的であれ」というポイントです。
クリエイティビティという言葉から、ついつい「失敗してもいいから好きに考えてごらん」という姿勢で臨むのかと思っていたのですが、インストラクターは授業中、繰り返し、「すでに世の中に同じ製品があるなら、同じものは作るな。『買う』のがベストな解であることもある」「競合サーチを怠るな。100年前のアンティークで実は必要な機能を満たしている製品をEbayで見つけて、それを改良したチームもある」「まずはパートナーを通じて製品を届けることを考えるように。ベンチャーを作ると、生産インフラから配達ネットワークまで一から作ることになって労力がかかる。」などと、「現実的に最も効率の良い解を考えるように」ということを強調していました。

デザイン思考のエッセンスの一つに「現実的であること」があるそうですが、どこまでも、「どうやったらユーザーにとってのインパクトを最大化できるか」を中心に考えている姿勢の先に初めて成功するデザイン・ビジネスがあることを改めて実感しました。

もちろんこういった現実解を強調する一方で、「リスクを自由に取れる環境」もばっちり用意されています。授業にはベンチャーキャピタル、弁護士、現地への旅行手配などのサービスがしっかりついていて、実際にこれらのインフラを利用してベンチャー化したチームもいくつかあるようです。

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たった2時間の授業でしたが、途上国向けものづくりのエッセンスが詰まった、実り多い見学となりました。
Kopernikの今後の活動にもぜひ反映させたいと思っています。

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