2010年2月15日月曜日

Jaipurfoot 発展途上国向けの義足

今回は、MITのD-Labで講師を勤め、BoP技術の最前線で働く遠藤謙さんに、ゲスト投稿をしていただきました。


世界には1千万人を超える切断患者が存在し、毎年25万人もの人が天災や病気、交通事故、あるいは戦争や内戦、対人地雷などの理由で体の一部を切断するという苦渋の決断を強いられている。先進国では膝下切断患者でも2000ドルはする下腿義足を使用する一方で、途上国では安価で機能的とは言えないような義足が使用されていた。その中でShri D. R. Mehta氏によって1975年設立された
Jaipurfootは、これまでに大きなイノベーションを起こしてきた。

Jaipurfootの正式名称はBhagwan Mahaveer Viklang Sahayata Samiti (BMVSS)であるが、アメリカではJaipurfootと呼ばれることが多い。Jaipurfootは義肢や装具を無償で配布しており、インド国内16箇所にあるクリニックには毎日多くの患者が義肢や装具を求めて訪れる。また、Jaipurfootはクリニックのない地域や国外で、義肢装具を配布するためのキャンプも行っている。これまでに配布してきた義肢装具の数は30万を超えており、現在世界最大の義肢装具コミュニティーといわれている。

Jaipurfootの特にすぐれている点は以下の3つに集約される。

  • 安価で高機能な義足、Jaipur Foot
1970年代以前、西洋で開発されたSUCH footとよばれる安価な義足は当時途上国を中心に最も多く使用されていた義足の一つだった。インドでもSUCH footが多く使用されていたが、しゃがむ動作に不向きである、人の足には見えないという理由から新しい義足の発明が待ち望まれていた。そして、これらの問題を解決するために、1968年、Ram Chander Sharma氏によって発明されたのがJaipur Footである。

  • 一日でフィッティングを可能にするプロセス
アメリカや日本のような国では義肢を作成するために、患者の切断箇所の型を作成し、ソケットとよばれる義肢と身体を接続するためのものを作成する必要があるが、このプロセスに通常1ヶ月以上かかることがある。インドでは、患者がクリニックに何回も来ることができないために、義肢の作成を数時間で行う必要がある。Jaipurfootでは、患者はクリニックに到着してから3、4時間後には義足をつかって歩いて帰ることできる。
  • 安いランニングコスト
義肢装具作成には、安い素材と簡易な加工しか行っていないために、組織自体の運営費も安く押さえることができる。さらに、義肢装具サービス以外の出費を最小限に押さえている為に、義足は無償で配布し、すべてを個人の投資や国からの補助によってカバーしている。

このように、Jaipurfootのビジネスモデルは、インドや周辺国の情勢や文化にうまく適合し、今なお成長しつづけている。ただし、自社内ではR&Dに手が回らないという問題点もある。これを解決する為にJaipurfootは積極的にスタンフォードやMITなどの大学との連携を進めている。

私は
MITD-labのスタッフとして途上国向けの義肢装具技術の開発を担当している。D-labとはMITに設置されている国際開発と適正技術に関する授業である。D-labは現地コミュニティーとパートナーシップを組み、彼らのための技術開発を行い、さらに冬や夏の休暇中にインターンシッププログラムを実施して技術の定着を目指している。D-labには、国際開発導入はもちろん、車いす、メディカルデバイスの開発から、BoP市場向けのビジネスプランを考案するものまで、合計10種類もの授業があり、必修ではないにも関わらず大人気の授業になっている。私はD-labの中の途上国向けの義肢装具技術に関する授業Developing World Prosthetics(DWP)を担当しており、その活動の中で協力している現地コミュニティーの一つがJaipurfootである。

DWPでは、安価な素材や限られた加工機のみを用いるといった制約条件の中で、Jaipurfootの再設計や膝上の部分を切断した患者のための大腿義足の制作などを行ってきた。例えば、以下の動画は2007年の夏のインターンシップのときに行われた大腿義足の実験の様子である。現在3名の切断患者がこの義足をインド国内で使用しており、今年の夏にまた新しいプロトタイプをクリニックに持っていく予定である。



参考資料
Jaipur foot study at Michigan Business School

2 件のコメント:

  1. シエラレオネでは、戦争中に手足を切断された人が多くおります。カンボジア、ラオスなどの国では、地雷で足を亡くした人も多くおります。インドのみならず、こういった国での活動は行っているのでしょうか?

    http://peacebuildinglive.blogspot.com/2008/07/blog-post_31.html

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  2. 中村さん
    コメントありがとうございます。
    私の知っているかぎりでは、地雷が埋まっている地域や内戦地域ではICRCが精力的に活動していまして、とくにカンボジアで行っていたICRCのプロジェクトへMITからインターンにいった学生がいました。その他は地元のコミュニティに頼っている(タイやアフリカ諸国)ものが多いかと思います。ぼくも情報収集しておりますので、より詳しい情報がありましたら連絡いただけると幸いです。ちなみに今年、DWPに新しくシエラレオネ出身のスタッフが増えました。今後活動を広げていきたい地域の一つです。

    http://www.icrc.org/

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