2010年10月31日日曜日

ケニア在住 コペルニク・フェロー 原口さんからの報告 その2

前回のレポートに続き、ケニア滞在中のコペルニク・フェロー原口拓郎さんよりのお便りです。


(レポート前半)

原口です。

前回のレポートで書いたとおり、今回の第2回目は、K-lightが与える間接的影響についてご報告したいと思います。

2. K-lightが与える間接的影響について

前回のレポートのK-lightが与える直接的影響で述べたとおり、K-lightによって灯油への支出が約68%下がりました。さて、ここで、疑問に思われた方もいると思いますが、K-lightを使い始めた家庭では、今まで灯油に使っていたお金をどのように使うのでしょうか?

この浮いたお金の使い道が今回のK-lightが与える間接的影響です。

今まで灯油に使っていたお金の使用先は、大きく分けて教育費食べ物ビジネスその他4つに分かれます。以下の図表は、45人の浮いたお金の主要なお金の使い道です。

以下それぞれ具体的に見ていきます。

1. 教育費(10人が回答)

家計の支出で一番費用が掛かっているのはなんでしょうか?

それは、教育費です。

そこで、まずはケニアの教育費に関して少し整理してみます。

ケニアでは、Primary school(日本の小中学校に当たる)が義務教育となっていて、Secondly school/High schoolがオプショナルとなっています。よって、全ての子供はPrimary schoolに行かなければならず、費用は子供の数に比例して増えます。それでは、Primary school1年間あたりの費用はいくらでしょうか?

Primary schoolFree educationとなっていますが、内情は少し違うみたいです。Primary schoolの先生に聞いてみたところ1年間当たり2,000kshかかるそうです。その内訳は、学校での食事と年に9回あるテストを受ける費用だそうです。さらに、この他にも制服350kshや教科書の費用等も発生します。また、Secondly school/High schoolでは、授業料が掛かるので1年間あたり12,000Kshの費用が発生します。

しかしながら、多くの両親が雇用されずに不定期な短期雇用によって僅かな収入を得ています。このため、多くの家庭では上記の教育費を払うのが難しい状況となっています。

以下、イメージしやすいように具体例を一つ挙げます。

・名前: Pascalia Akumu

・年齢: 76 years

・家族構成: 4 Grandchildren(20years-3years)

灯油の支出の減少値: 60Ksh/1day

K-lightを受け取る前の状況:

Pascaliaさんには4人の孫がいます。彼らは両親がいなく、代わりに祖母であるPascaliaさんが世話をしています。子供は夜遅くまで勉強するため灯油は1日当たり70Kshも使用します。しかしながら、76歳という高齢のため働くことができず、収入は親せきからのサポートによってやりくりしている状況です。それでも、子供たちの教育費を払うのにとても苦労していました。

K-lightを受け取った後の状況:

K-lightを使用することにより、1日当たり60Kshのお金を浮かせる事ができました。Pascaliaさんの場合、高齢でビジネスができないため、教育費に充てているそうです。生活は依然としてくるしいですが、このお金によって教育費を部分的にサポートできているそうです。

2. 食べ物(11人が回答)

食べ物に使っている家庭はどのような状況に置かれているのでしょうか?

多くの女性にインタビューしてみて、資金不足から毎日十分にご飯を食べることができない事が、とても普通であることが分りました。特に私が滞在している西ケニアの田舎では子供の数が多く、ご飯の量も子供の数に比例して必要とされます。このような状況では、

子供は十分な栄養を取ることができず栄養失調に陥ります。

イメージし易いように一つ例を紹介したいと思います。

例1.

・名前: Christin Nechesa

・年齢: 32 years

・家族構成: 5 children(12years-3years)

灯油の支出の減少値: 25~30Ksh/1day

K-lightを受け取る前の状況:

Christinさんには5人の子供がいて、4人はPrimary schoolに行っています。上記で述べた通り、Primary school1人当たり年間2,000Kshの費用がかかります。また、3歳の娘は病気に罹っており、適切な治療を必要としています。しかしながら、Christinさんも夫も職に就いておらず、不定期な短期雇用によって収入を得ています。Christinさんは、他人の畑仕事の手伝いで1日当たり25Kshしか稼げません。また、夫もサトウキビ畑で収穫する仕事をしていますが、1日当たり100Kshしか稼げません。このような状況で、満足にご飯を食べることができないとChristinさんは嘆いていました。朝食は基本的に食べることができず、夕食も1週間のうち2~3日しか食べることができません。何も食べることが出来ない時は、この地方のいたる所で栽培されているサトウキビを食べてとりあえず空腹を満たすそうです。また、仮に食事を食べることができたとしても、食事は決まって下記の写真のウガリとスクマウィキなので非常に栄養バランスが悪いです。このような状況のため、子供は病気がちになります。

   

ウガリ                         

スクマウィキ         

   

K-lightを受け取った後の状況:

Christinさんは場合、K-lightの使用によって浮いたお金を食べ物の購入に使いました。

その結果、朝食は1週間に1~2回、夕食は4~5回に増えました。また、バナナ、マンゴー、オレンジの果物も週に1~2回購入できるようになり、ビタミン等の栄養素を摂取できるようになりました。その結果、ビタミンAの不足から生じる子供の肌の病気も果物を摂取することにより少し改善したそうです。Christinさんの生活は依然としてとても苦しいですが、K-lightを使用することにより食生活が改善されました。

ちなみに、上記の例は典型的な例です。

(レポート後半に続く)

2010年10月30日土曜日

オーストラリア・キャンベラ

キャンベラについて2週間ほどが経過した。

エヴァの両親がいるため、キャンベラに滞在するのは3回目。10月・11月は、ちょうど春で、これからあったかくなっていく時期。お昼位になると、非常にぽかぽかし始め、外を歩くのに非常に適した気候だ。

昨日はエヴァの両親が、友人達を呼んでパーティーを開いた。インドネシア時代の友人で、オーストラリア開発援助庁に努める友人達も来てくれた。

両親が3-4日前から準備した料理は、当然ポーランド料理。昔、東欧の料理は、イモと肉だろうと、変な先入観があったが、ところが、非常に洗練されている料理だ。
































2010年10月28日木曜日

私の提言 「開発援助業界にイノベーションを!」

少し前になりますが、国連フォーラムの「私の提言」に以下の「開発業界にイノベーション」という題で、以下の提言をさせていただきました。そのまま文章を転載します。(参考文献・脚注は省略しております)


1. より効率的な開発援助を目指して、様々な改革が行われている。
2. 既存の改革と同時に、伝統的には開発業界の外にいたアクターを巻き込み、構造転換を図る改革も必要。
3.「専門家」が全て答えを知っているとは限らない
4. 提言:開発業界にイノベーションをもたらそう
新しいアクターの参入障壁を下げる方策
長期的にイノベーションが継続して起こる環境づくりの方策
視野を広げる方策


1.より効率的な開発援助を目指して、様々な改革が行われている。

 先進国政府と途上国政府を繋げる政府開発援助(ODA)は、第2次大戦以降60年以上にわたって行われ、様々な国々の発展に寄与してきた。一方、課題も多く、政府開発援助業界の内側からも健全な問題意識が出始め、改革案が出ている。

 例えば、「開発支援は、地球規模・そして国レベルでの目標がはっきりしていないので、インパクトが測れず、説明責任が曖昧」という問題意識に対して、2000年のミレニアム宣言[1]採択から、ミレニアム開発目標 [2] の設定が行われ、定期的にトラッキングが行われ始めた。また、「ドナー側から援助受け入れ国への押し付けが多く、援助を受ける国が本当に必要な援助がされていない」という問題意識のもとに、ローマ宣言、パリ宣言 [3] が採択され、被援助国側のオーナーシップを強調するなど改革案が出てきている。国連のレベルで言えば、「各機関がばらばらに動いているため、国連に流れる資金や国連としての競争優位が最適活用されていない」という課題認識から、1つの国連(Delivering as One) [4]の取り組みが始まり、国連内の調整機能強化や多国間信託基金(Multi-Donor Trust Fund) [5]の設立が促進されている。これに関連し、「教育や保健、農業などの支援をばらばらにやるからダメ」という問題意識に発し、同じ場所で包括的な支援を同時に行い、シナジー効果を狙うミレニアム・ビレッジ [6] などがある。

表1:効果的な開発援助に向けた取り組みの例


問題意識

効果的な開発援助に向けた取り組

関係機関

目標がはっきりしていないので、援助のインパクトが測れず、説明責任が曖昧。

ミレニアム開発目標の設定とトラッキング。[7]

UNDP, 世界銀行

ドナー側からの押し付けが多く、援助を受ける国が本当に必要な援助になっていない

ローマ宣言、パリ宣言などを通じ た改革案とトラッキング。[8]

OECD

国連内で連携が取れていないため、国連に流れる資金が重点分野に効率的に使われていない

Delivering as Oneや現地レベルでの調整機能向上 [9]、信託基金[10] の設立などを通じた国連改革。

UNDP,世界銀行

教育や保健、農業などの支援をばらばらにやるからダメ。同じところで包括的な支援を同時にやるとシナジーが出て効果が倍増する。

ミレニアム・ビレッジ。[11]

UNDP, The Earth Institute

2.既存の改革と同時に、伝統的には開発業界の外にいたアクターを巻き込み、構造転換を図る改革も必要。

 これらのODA業界の内部改革を推し進める一方で、伝統的に援助産業の外にいたアクターを、より効果的に取り込み、貧困削減のアプローチにイノベーションを起こしていく必要があると私は考える。事実、今まで貧困問題解決に積極的に参加してこなかった大学、民間企業、技術者、一般個人などのアクターが、様々な新しいアイデア、ソリューションを創造し、開発援助の業界で確実に地殻変動が起こっているのだ。

 例えば、大学発のイノベーション。前回の提言 [12]で包括的に議論されたのでここではあまり深入りしないが、マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学などの大学から、多くの途上国向けの解決手法が生み出されている。さらに、シンガポールでは、現在MITと共同で、シンガポール技術・デザイン大学 [13]という新しい教育機関を作り、技術とデザインを使って社会問題を解決することを目指している。発展途上国自体からも、Lemelson財団 [14]の支援を受けてRAMP Indonesia[15]や、RAMP India[16]といった取り組みが始まり、自国における社会問題解決のための技術開発を促進している。日本では、最近大学・技術・BoP (UTB)[17]という取り組みが始まり、東大、慶応大などで、適正技術教育を日本に導入する支援を行っている。これは、今まで大学教育で典型的な、「国連やODAの仕組みについて勉強する」というアプローチと異なり、今までの援助業界では生まれていない、新しい解決法を自ら作り出すという非常に積極的なアプローチだ。

 また、Base of Pyramid (BoP)という言葉が浸透してきたことが示唆するように、発展途上国を新たなビジネスチャンスととらえ、水・衛生、保健、環境・エネルギー、教育、農業などの分野で途上国向けの独自の解決策を開発するケースが多く出てきた。最も数が増えてきているのが、今や途上国向け社会ビジネスの代名詞ともなってきたD-Light [18]などが製造・販売する太陽光発電ランプ [19]。その他、安価な水の浄化器具 [20]、途上国向けのメガネ [21]、Googleがウガンダで始めた携帯電話で使えるオンライン売買サイト [22]や、1つのコンピューターを何人かで共有できる器具 [23]など、今まで、営利企業が目を付けてこなかった、発展途上国の市場に対する技術・製品・サービスの開発・販売がおこなわれている。日本の企業は少し出遅れているが、近年多くの企業が途上国向けのプロダクト作りに興味を示し、実際にプロトタイプ・製品が徐々に出現し始めている [24]。

http://www.dlightdesign.com/images/products/global/kiran/kiran2.jpg Proposal photo Proposal photo
D-Light Water Tulip NComputing

 さらに、今まで開発問題に直接関わりを持たなかった人達が、特別なスキルや技術を持たなくとも、開発問題の解決に直接参加できる仕組みも出来てきている。オンライン・ギビング・マーケットプレースと呼ばれるKiva [25]やグローバル・ギビング [26]は、政府対政府という税金を介したODAの仕組みに乗らずとも個人が国際開発に参加できることを証明した。そして、その規模も半端ではない。Kivaは2009年、個人から計1億ドル以上の小規模投資を集め [27]、各国のマイクロファイナンス機関に対しての投資を行った。UNDPのコア資金に対する日本政府の拠出金が2008年に0.7億ドルであったことを考えれば、その規模が測り知れるはずだ。

 実際、マクロで見ても例えばアメリカの寄付市場は年間3000億ドル近くと非常に大きく、その内に国際問題分野に流れる寄付は、その4%の100億ドル以上となっている(下グラフ参照)[28]。これは、日本のODAが94億ドル(2008年度)[29]ということを考えても、非常に大きな金額だということが分かる。寄付文化の根付きにくいと言われる日本でも、寄付文化を拡大するための取り組みが多く始まり[30]、大きな可能性を秘めている。

 国際機関がこういった新しいアクターと協業をするというのは、非常に限られた場合をのぞいて殆ど見られない [31]。このことは、裏を返せば、これらのリソースをうまく活用することにより、途上国問題のより効果的な解決へとつなげる機会があるということだ。

3.「専門家」が全て答えを知っているとは限らない

 少し脱線して、いわゆる「援助の専門家」だけで問題を解決しようとすることの落とし穴について述べたい。開発分野での長年の経験というのは非常に大事だ。しかし、経験の年数や「専門性」にとらわれすぎると、新しいアイデアが生まれにくくなるというのも事実だ。この、「専門性」とイノベーションのジレンマについて、示唆深い例がある。

 イノベーションとインセンティブを組み合わせた造語からなる、イノセンティブ(Innocentive) [32]という会社は、今まで内部で行ってきた企業の調査研究を、オープンにし、会社の外のリソースを使って解決する仕組みを生み出した。Crowd Sourcing(大衆へのソーシング)[33]とも呼ばれる手法で、トップスクールの博士号をもつ多くの優秀な会社内の研究員で解けない問題を、一般公募で解いてもらうのだ。そして、最も適した解決法を提案した人に賞金を与える。2001年に設立してから今までに、千以上の課題が「大衆」に問いかけられ、それに対する約2万の解決策のアイデアが提出されている。平均して、提出された解決策の内の約30%が、企業が満足するような成功解を導き出しているという [34]。

 ここで興味深いのは、「優れた解決策を出す人は、その分野から最も離れた分野を専門とする人だ」というのだ [35]。つまり、その道の専門家でない人が、関係ない分野の知識・知恵を使って創造的な解をだしてくることが多いということだ。これはいかにも直観に反しているが、「閉ざされた」開発援助の分野に大きな意味を持つだろう。

 私は、(私も含めた)国連機関や国際開発NGOで働く「どっぷり開発援助専門家」以外に、多くのアクターをより積極的に絡めることで、イノベーションが起こり、貧困削減という人類の最も重要な課題の一つを、地球上のリソースをフル活用して解決出来ると考えている。

4.提言:開発業界にイノベーションをもたらそう

 今まで、閉鎖的で、内部の変革を中心に議論されてきた開発援助業界だが、近年様々な「非伝統的」アクターが増加し、援助業界に非常にポジティブな地殻変動が起こっている。この流れをどのように加速させ、さらなるイノベーションを喚起することが出来るだろうか。

 筆者自身、国連開発計画で働きながら、現在の人類のおける最重要課題の一つである貧困問題をどのように、より効率的に解決できるかを考えてきた。そこからコペルニク [36]という非営利団体を立ち上げ、テクノロジーをテコに、民間・大学から出てくるソリューション、途上国の人々、そして個人の寄付者・投資家をオンラインでつなげる活動をしている。非伝統的アクターと、伝統的アクターをつなげることから、イノベーティブな貧困問題解決のアプローチが生まれ、途上国の発展を促すことを狙っている。

 さらに、オンラインでの活動を超えて、日本の企業や、エンジニア、デザイナーの方々に途上国向け技術開発の糸口を探す機会を提供し、より多くの日本発の途上国向け技術が出現すること狙いSee-Dコンテスト [37]を始めた。実行体制から多様性を具現しており、マサチューセッツ工科大学 D-Lab [38]、東京大学I-School [39]、ETIC [40]、ミュージック・セキュリティーズ[41]、Enmono日本財団CANPAN [42]といった方々の御協力を得て、様々なセクターを代表する実行委員のメンバー [43]で推進している。

Proposal photo
今年731日に開催されたSee-Dコンテスト公開シンポジウムの様子

 コペルニクを実際に始めてからの日は浅く、その活動も非常に拙いが、今までの開発援助での経験も踏まえ、非常に荒削りだが8つのアイデアを提言として示したい。その8つの提言は、以下、I) 新しいアクターの参入障壁を下げる、II) イノベーションが継続する環境を整備する、III) 新しい参入者の裾野を広げる、そして、IV) 日本を開発イノベーションの世界的中心とするという4つのグループに分けて紹介する。

新しいアクターの参入障壁を下げる方策

提言1:イノベーション・ファンドを政府内に創設する:
日本においては、未だ社会問題を解決する非営利団体や社会的企業に対する、投資・グラントの規模は非常に小さい。この、イノベーション・ファンドでは、水・衛生、環境、教育、保健などの途上国の社会的問題を新しいアプローチで解決することを目指す会社や社会的企業、非営利団体に対して、数千万から数億円の規模での財政的支援を与える。仕組みとしては、オバマ政権が5000万ドルを投資して創設した、
ソーシャル・イノベーション・ファンド [44]が参考になるだろう。

提言2:日本人が、発展途上国のニーズをよりよく理解するための機会を創設する
お金まわりと同時に、多くの日本のアクターの途上国問題解決への参入障壁は、途上国の現状・ニーズの理解の欠如だろう。これは、やはり、実際に途上国に行き、現地にどっぷりつかることが必要だろうが、現実的には、最初の取っ掛かりをつかむ機会を提供するということが必要だろう。上で紹介したSee-Dコンテストでも、「フィールド調査」として、このような機会を提供しているし、
International Development and Design Summit [45] (IDDS)というマサチューセッツ工科大学が主催している取り組みも参考になる。IDDSは世界中の学生、企業、非営利団体を集め、毎年夏休みの期間3週間、主に途上国で、途上国の課題を解決するような、製品開発・プロトタイプ作りをするというもの。このような機会を日本人向けに創造することにより、日本と発展途上国の垣根を取り除く第一歩になるはずだ。

長期的にイノベーションが継続して起こる環境づくりの方策

提言3:開発イノベーション・ハブをつくる:
途上国向け技術開発の成功例が多く出てくる地域や大学の回りで、クラスターを形成しソーシャル版シリコンバレー的な、開発イノベーション・ハブを形成する。ここでは、日本だけでなく、アジア諸国の社会企業家が集まれるような環境を整えることも視野にいれるべきだろう。参考になるのは、チリが最近始めた、
Start Up Chile [46]というプログラム。このプログラムでは、世界中から起業家を集めるためにスタートアップグラント、ビザの手配、オフィスの提供などのインセンティブを設けている。

提言4:社会的目的を持った団体が活動しやすいように法整備する
日本における非営利団体をめぐる法的環境は、免税の措置などで、欧米に後れを取っており、今後さらなる整備を必要とする。この際に、ユヌス氏が提唱するような、持続可能な収益構造を持ちながらも、株主への配当がないソーシャルビジネスのモデル [47]や、アメリカのメリーランド州で最初に採択された、
For-Benefit Corporation [48]という営利企業と非営利団体の中間に位置するような団体のモデルなど、今までの営利・非営利という枠を超えた一歩先の団体の枠組みを考える必要があるだろう。

提言5:日本版Guide Star [49]を設立する:
社会的ミッションを持った団体に対する資金の流れを強化してくためには、何より、非営利団体自体の情報公開を進め、説明責任を強化し、信頼度が増す努力を強化していく必要がある。アメリカのGuide Starは、内国歳入庁のデータベースをもとに、アメリカで免税資格を保有する全てのNPOの情報を網羅的に開示している。日本でも、Guide Starのような、情報開示サービスが必要ではないだろうか。この際、開示する情報の中に、開発インパクト評価が入ることが望ましい [50]。

裾野を広げる方策

提言6:適正技術教育を拡充する:
前回の提言で、網羅的に述べられたが、将来、日本の企業やエンジニア・デザイナーから途上国向けのソリューションを継続的に排出していくには、そもそもそういった人材を育成する仕組みが必要になってくる。シンガポール技術・デザイン大学 [13]のような新しい適正技術教育に特化した大学を作るか、既存の大学の枠内で適正教育を開始・拡充する方法も考えられるだろう。

提言7:途上国の問題を解決するプロセスを追った一般向けTV番組を制作・放映する:
大学・大学院生を超えて、さらに多くの人を途上国向けのイノベーション創造プロセスに巻き込むために、例えば、リアリティーショーのような形で、途上国の問題解決のプロセスを放映する番組を作れないだろうか。15人ほどの、エンジニア、医者、学校の先生、開発援助専門家など、様々なバックグラウンドを持つ人を集め、実際の途上国の問題解決を、ブレインストーミングから、解決案の提案、そして、その実際の効果測定などをリアルに記録するリアリティー番組を作る。視聴者もリアルタイムに問題解決に参加できる仕組みも組み入れる。開発問題には今まで関心の無かった多くの人々の興味を喚起し、さらに様々なアイデアが生まれてくる可能性も秘めているのではないか。

日本を開発イノベーションの世界的中心とするための方策

提言8:開発イノベーション国際会議を日本で開催する:
最後に、技術立国としての日本が、地球上の重要課題である貧困削減において、国際的なリーダーシップを取るために、開発イノベーション国際会議を日本で企画・開催することを提案する。世界各地のイノベーターを一同に集め、成功例、レッスンを共有し、開発イノベーターの世界的ネットワークを形成する。戦後、技術をテコに復興・発展をリードしてきた日本ほど、リーダーシップを取るにふさわしい国はないのではなかろうか。

          Proposal photo
              東ティモールオクシ県ので村人と話会う筆者

拙いアイデアをつらつらと書いてきたが、既成概念にとらわれず、より効率的な貧困削減のアプローチを、今後とも、皆様と一緒に作っていければと思う。

2010年10月27日水曜日

2010年10月24日日曜日

See-D 成果物発表会の様子

See-Dサイトより転載


10月23日、政策研究大学院大学にて成果物発表会が行われました。

講評者・ゲストスピーカーに、黒川清教授(政策研究大学院大学)、米倉誠一郎教授(一橋大学)、山本愛一郎氏(JICA地球ひろば副所長)、久木田純氏(UNICEF東ティモール事務所代表)、畑中元秀氏、渡邉康太郎氏(takram design engineering)をお迎えし、参加者の方々が2ヶ月間で作り上げてきたアイデアをプレゼンしていただきました。
その様子をリアルタイムペーパーとして編集いたしましたので是非ご覧下さい!!

  • sympo
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    2010年10月23日土曜日

    ケニア在住 コペルニク・フェロー 原口さんからの報告

    コペルニク・フェロー第一号のマイケルに続いて、2人目のコペルニク・フェロー、原口拓郎さんから、活動のアップデートが届きました。原口さんは、ケニアをベースに、インパクトの測定を含め、様々なコペルニクの活動を支援しています。

    コペルニク・フェロー(ケニア)
    原口拓郎さん

    皆様、はじめまして。

    コペルニク・フェローとして先月からケニアにてK-light(ソーラーランタン)の調査をしている原口拓郎と申します。これから、週1回のペースでケニアの現状をアップしていきたいと思います。よろしくお願い致します。

    さて、今回投稿する内容は今週と次週の2回に分けて私が調査をしているK-lightがどのように人々の生活に影響を与えているのかについてご報告したいと思います。1回目の今回はK-lightが直接的に与える影響について、次回はK-lightが間接的に与える影響についてです。

    1. K-lightが直接的に与える影響

    K-lightが直接与える影響は、灯油のコスト削減、安定的な光の確保、煙による被害の低下、火事のリスクの低下4つに集約されます。以下、それぞれ見ていきます。

       

    K-light

    灯油ランタン

    1.1 灯油のコスト削減

    私が滞在している西ケニアの村ではほとんどの人が電気にアクセスすることなく、代わりに灯油ランプを明かりとして使用しています。しかしながら、灯油の値段は1日当たり平均25Ksh(25)と高く家計を圧迫しています。インタビューした女性の1人、Ceciliaさんは1年の収入は4000Kshと言っていました。これは、1日当たり約11Kshと、この女性にとって灯油の値段が如何に高価であるかがわかります。

    Ceciliaさん

    46歳で子供が7人います。夫は酒に潰れていて、彼女1人で家庭を支えています。

    このように灯油の値段が高価であるため、幾つかの貧しい家庭では毎日灯油ランプを使用することができず、真っ暗やみの中で、夕飯の準備をし、夕飯を食べ、机を片付けて寝る準備をして、寝なければなりません(ケニアでは18時半が日の入)

    このような、状況でK-lightはどのような効果を与えるのでしょうか?

    先週と今週で51人の女性全員を調査したところ全員がK-Lightによって灯油に掛けるお金が減少したと言っていました。下記の図表は、51人の家庭での1日当たりの灯油の支出の平均値をK-light導入前と導入後で比較しています。灯油の支出の減少率は実に約68%にも及びます。

    1.2 安定的な光の確保

    上記でも述べたとおり、幾つかの貧しい家庭では毎日灯油を買うことができずに夜は真っ暗な中で生活しています。また、借りに灯油を毎日買うことができたとしても安定的な光を確保できたと言い難い状況です。

    分りやすいように典型的なケニアの村の家をイメージしてみましょう。

    写真のような小さな2つの家があったとします。この家では、両親と3人の子供が住んでいます。そして、夜になると以下のような光を必要とする活動が生じます。

    ・優飯の準備

    ・食事

    ・子供たちの勉強

    ・ベットメイキング

    しかしながら、お金の問題で灯油ランプが1つしかありません。

    そこで、上記の活動を同時にすることはできず順番にしなければなりません。活動場所は、一か所ではなく、活動場所に合わせて2つの小さな家を灯油ランプを持って行きしなければなりません。また、火の部分がむき出しのため風に当たるとすぐに消えてしまいます。

    さらに、灯油ランプの明かりはそこまで明るくありません。そのため


    では、K-lightを導入するとどうなるでしょうか?

    K-lightと灯油ランプを2つ使用することにより、2つの活動を同時にできるようになります。例えば、片方の家でお母さんが灯油ランプを使って夕飯の準備をしている最中に、もう片方の家で、子供たちがK-lightを使って勉強するということが可能になります。

    次に明かりについてですが、K-lightの方が明るいです。

    以下の2つの写真を比べてみましょう。2つの写真では5人の子供たちが勉強している所ですが、明るさが違います。ちなみに、2つの写真は同じ場所を明かりの種類を変えて撮影しています。

    灯油ランプを使用

     

    K-lightを使用

    1.3 煙による被害の低下

    煙による被害で顕著なのが、健康に与える影響です。灯油ランプを使用すると人体に有害な煙を発します。特に、子供たちの勉強では字を読み書きするような活動するため、より灯油ランプに近づいて明かりを確保しなければなりません。インタビューした多くの女性は煙が目に与える影響について言及していました。また、煙により室内や衣服が汚れるケースもあります。

    このような状況でK-lightを使用すると、灯油ランプを使用する機会が減少し、煙による被害も低下します。

    1.4 火事のリスクの低下

    ほとんどの家庭では火の部分がむき出しになっている灯油ランプ(コロボイ)を使用しています。そのため、何かの拍子で火が何かに引火したり、灯油ランプが壊れて中の灯油に引火するリスクを秘めています。実際に、インタビューした女性の中に、灯油ランプより家が全焼したと言っている人がいました。

    そこで、K-lightを使用すると、上記と同じように灯油ランプを使用する機会が減少し、火事のリスクも低下します。


    以上、K-lightが与える直接的影響でした。次回はK-lightが与える間接的影響についてご報告したいと思います。